秘密の地図を描こう
109
アスランに会ったからか。それとも興奮したからか。キラはしっかりと熱を出してしまた。
本当に、彼が帰った後でよかったかもしれない。残ると言いそうだった彼を連れて行ってくれたニコルには感謝するしかないだろう。
そんなことを考えながら小さなため息をつく。
「とりあえず、水分をとりなさい」
ラウがそう言いながら、ボトルを差し出してくる。
「すみません」
「気にすることはないと、何回言えば納得してくれるのかな?」
苦笑とともに彼はそう言った。
「ですが……」
こんな風に熱を出すとは、とキラは視線を落とす。
「それでも、こうやって話ができるのだからね。よくなってきている証拠だよ」
以前は話をするのも辛そうだったが、と彼は微笑む。
「アスランももう少し気を遣えばいいものを」
結局、あれから自分のことしか口にしなかった。だが、それはある意味、アスランらしいと思う。
「……昔から、ですよ」
考えてみれば付きにいた頃からそうだった。それでも、あの頃は自分にとってもその方がよかったのだ。
しかし、今は違う。
自分も彼も成長をしたからか。それぞれ、違うものを見るようになってしまった。
だが、アスランの中では自分はいつまで経ってもあの頃のままのイメージらしい。
「僕は、そんなに頼りないのかな?」
アスランから見れば、とため息をつく。
「それが思い込みなのだけがね」
困ったものだ、とラウは告げる。
「もっとも、そのあたりのことは気にしなくていい。しばらくは彼と同行することはないだろう」
彼はザフトに縛られるがキラは違う。ラクスと同じで自由に動いてかまわないのだ。彼はそう言った。
「……問題があるとすれば、私の方だろうね」
果たしてアークエンジェルのクルーをはじめとした者達に受け入れてもらえるかどうか。
「私は、彼らの《敵》だったからね」
彼はさらにそう付け加える。
「それは……大丈夫だと思いますけど……」
少なくとも、自分が覚えているとおりなら……とキラは言う。
「まぁ、そのときはそのときだ」
何とかなるだろう、と彼は告げる。
「ともかく、今はそれよりも世界の状況がどうなっているのか。それを知ることが優先だろうね」
最小限の被害でこの戦争を終わらせるためにも。そう告げるラウに、キラもうなずいてみせる。
「そうですね。でも、どこまで許可をしてもらえるのか」
自分が調べることを、と続けた。
「私が同席すると言うことで妥協してもらうしかないだろうね」
ニコルには、と彼は言葉を返してくる。
「何で、ニコル……」
「あの男は渋々でもすぐに許可を出すからだよ」
キラの望みなら、と苦笑を浮かべた。
「だが、ニコルは君を大切に表いるからこそ、できるだけその手のことから遠ざけたいと思っているようだからね」
君の力が必要になるとは認識していても、それを少しでも長く引き延ばしたいと考えているはずだ。
「アスランとは別の意味で厄介かもしれないね」
それでも、アスランのように納得したようで納得していない相手よりは与しやすいが……とラウは苦笑を深める。
「私が眠っている間に、本当に扱いにくく成長してくれたものだ」
もっとも、今はそれが必要なのだろうが……と続ける彼の表情は優しい。
「しかし、レイがああなるのは願い下げだね」
ただでさえ厄介な性格に名手いるのに、とため息をついてみせる。
「レイはしっかりとしているだけでしょう?」
それとも、自分が頼りないのか。どちらだろう、とキラは首をかしげる。
「それもこれも、あの男が悪い……と言うことにしておこう」
悪いのは全部彼でいい。それも親愛の表れなのだろうか。キラは心の中でそう呟いていた。